大学職員への転職の道は狭き門と言われていますが、効率よく選考に進めるコツがあります。筆者は新卒で民間企業に就職したのち、20代後半で大学職員に転職したキャリアがあります。この時、数多くの大学職員(正社員)の採用を受け、最初は落ちまくり、最後はスムーズに内定を勝ち取ることに成功しました。都内の大学職員になってからは、経営企画から人材募集まで様々な業務を経験してきたので、特に採用に関わる体験談をここに記そうと思います。
大学職員の倍率は約20〜200倍
正確な数値は公開できませんが、大学職員の募集は人気のある転職先の一つです。倍率にブレがあるのは、法人、職種によってその人気度、ハードルが異なるからです。
首都圏にあるみなさんが知っているような大学の募集は倍率が極めて高くなります。なぜならばそういった法人は安定しており、年収が桁違いに高いからです。ちなみに学生の学力層(偏差値)と職員の年収は比例しません。日東駒専のように学生の偏差値はそこまで高くありませんが、法人としての運営がうまく、規模が大きい組織は企業としての価値が高いのです。
逆に地方の大学や、首都圏でもあまり知名度のない私立大学などは倍率が下がります。そもそも転職希望者が募集をしていることを知らなかったり、大学側に資金力と体力がないのでマイナビ転職のような転職プラットフォームへの募集掲載ができないためです。また、地方や知名度の低い大学は職員の年収も低くなりがちなので、そもそもの採用枠としての魅力が少ないことも理由の一つでしょう。
ですが、大手大学の内定を勝ち取るため、戦略的にまずは無名大学の職員になるという手段も悪くありません。大学というのは独特な職場環境です。その文化に慣れているかどうかは採用側を安心させるものです。まずは無名の大学で大学職員のルールを身につけて、有名大学にステップアップするというのも悪い選択肢ではありません。実際私の周りにもそういう職員が大勢います。
技術職は倍率が低め。事務総合枠や広報は倍率高め。
職員の専門性が高い職種は、たとえ人気大学であっても倍率がそこまで上がりません。特に技術系・医療系はその筆頭です。技術職員とは、たとえば理工学系や美術系などの学部を持つ大学で、学生が使用する施設や講義で語術指導をする職員のことを指します。また、大学の施設管理をする機械・電気工事系の職員や、キャンパスの建築管理職員(建築系)など、学生と直接関わらない部署での技術職員を募集していることもあります。
人気のある職種といえば、事務系の総合枠です。これは簡単にいえば内定後に配属される部署が決まる採用枠のことです。転職の場合、即戦力を募集するので、たとえ総合職採用であっても部署や業務がある程度決まっていることが多いのですが、大学職員は意外とこの事務総合枠の採用が多いのです。そしてこの事務総合の採用で求められるのは、事務スキルがあれば十分な場合が多いため、誰にでも応募できるということで倍率が釣り上がるわけなのです。
ちなみに広報やマーケティング、営業の職員募集も倍率が高くなりがちです。理由は事務総合と同じで、求められる職員の必須スキル要件が簡易だからです。
転職エージェント経由で紹介されることは少ない
大学職員の求人はどこに載っているのでしょうか。答えはバラバラです。それじゃあ元も子もないじゃないかと言うことで、傾向があるのでそれをご紹介します。
まずマイナビ転職で求人を見かけることが非常に多いです。大学はなぜかマイナビで求人を出すという謎の文化があります。これは新卒採用も同じで、理由はわかりません。リクナビ転職でもたまに見かけますが、マイナビが一番多いです。
次にIndeedや求人ボックス、その他求人サイトにも掲出があります。
最後に一番厄介なのが、大学の公式サイトにしか掲載がない場合です。これは検索して頑張ってみつけるしかないです。
最後にDODAやリクルートエージェントなどの転職エージェント、ビズリーチやリクルートダイレクトスカウトなどのスカウトサービスで大学職員の求人を見かけることは少ないです。ただゼロではなく、DODAではたまに見かけます。個人的には採用はエージェントやスカウトサービスを使う方が主流になってきているので、大学もどんどんこっちにシフトしてほしいと思っています。
さて本サイトでは毎週求人情報を更新しています。ネット上のあらゆるところから正社員の募集を中心に集めてリンクを貼っていますので、本サイトを使って少しでも求人探しの手間をカットしてみてください。
大学職員未経験者の転職は難関?
大学職員未経験の場合は転職のハードルが高いのでしょうか。結論そんなことはありません。私自身、転職前は民間企業で編集の仕事をしていましたし、周りにもメーカーや商社など、あらゆる業界から転職してきた職員がたくさんいます。
では逆に大学職員経験者は不利なのかというとそんな事もありません。結局のところはその人の素養次第です。ただ、大学職員経験者が圧倒的に有利なポイントが1つあります。それは大学職員の独特の職場環境、風土、ルールを知っているという事です。業界ごとに特有のルールがあるなんて当たり前じゃない?と思うかもしれませんが、大学の文化は少々曲者で正直適性があります。詳しくは次の項目で。
大学職員にはヒューマンスキルが欠かせない
まず個々の大学にはそれぞれの細かな職場のルールがあります。そして入社して間も無くはそれに従うことは絶対です。もしそのルールを変えたいと思っても、人間的に職場に受け入れられ、根回しして巻き込めるほどの味方を作ってからにしましょう。
大学という組織はほとんどが完全な年功序列です。いまだに昇格試験もないような組織が多く、長く勤めた人、年齢が高い人が賃金も高くなります。そのため全くもってリーダーシップや人の上に立つようなスキルのない人が部課長をしていたりします。また職員の他に教員という、別の大きな力を持った人たちがいます。法人によりますが、多くの場合、職員は教員に頭が上がりません。上司と教員が真逆のことを言っていると完全に板挟みになります。
こういった民間企業ではあまり見られない独特な職場環境の中で働いていくのには適性があると思っています。正直自分はこういった古臭い体勢は好きではなく、自分が所属していた法人ではこれを変えようとかなり尽力しました。しかし組織というのは簡単に変わるものでもありません。
もしあなたが大学職員に転職したいのであれば、ヒューマンスキルの高さとその経験談は必ず用意しておきましょう。大学職員経験者であっても未経験者であっても、人間関係で苦労してそれを乗り越えた人は必ず重宝されます。また、大学は自我を押し通してでも成功を成し遂げることが是とされる組織ではありません。あくまでチームワーク、周りと協調しながらミッションを遂行する人が求められます。
また、学生や保護者、教員との人間関係のトラブルは常につきものです。冷静にトラブル対応できる人材は重宝されます。
加えて聞き上手であることの欠かせません。窓口のうち学生相談の部署は悩みを引き出す力が高く評価されます。学生窓口部署以外だと学科運営のコンサルティング業を任される部署もあります(経営企画や広報など)。こういった部署は教授との対話を繰り返してより良い組織づくり、広報物、イベントを作っていく力が求められます。聞き上手であることは教授との対話において非常に有利に働くでしょう。
採用担当者は、ヒューマンスキル、トラブル対応スキル、聞き上手のいずれかの具体的なエピソードを問うことが多いのです。
事務スキルはそこまで高くない
大学職員の事務スキルはそこまで高くありません。多くの職員はExcelの基本的な関数が使える程度でしょう。もしあなたが事務スキルで周りを出し抜きたいのであれば、VBAやAccess、Powerクエリ、Power BI、GASなどを使えればそれで十分です。さらにPower Aoutmateも使ったことがあればもう満点でしょう。基本的なPythonの処理(PandasやNumpy、Matplotlib、スクレイピング系ライブラリ)で事務仕事の簡潔化・自動化ができるのであれば、すでに多くの大学職員を圧倒しています。
語学スキルはなくても良いがあれば高評価
国際系の仕事を担う部署でない限り、英語や中国語などの語学スキルは必須ではありません。しかし、日本の大学に留学生が多く所属するようになってから、語学対応スタッフが足りていないのは事実です。特に日々の業務では使わなくても、突然留学生の保護者から電話がかかってきたり、オープンキャンパスなどのイベントで日本語を話せない来場者が訪れたりすることがあります。そういった時、各部署に最低一人は少しでもいいから語学が対応できる職員が欲しいのです。語学の優先度は英語>中国語>韓国語になります。
選考で課題が出ることがある
書類選考が進み最終選考に近づくと、課題提出を求められることがあります。課題のテーマはまちまちですが、よくあるのは大学法人の組織改善提案です。事業報告書や会計資料を読んで、大学の課題、改善点と具体的施策を提出させるものになります。この課題の突破へのヒントですが、その2つの資料を読んだだけでは恐らく精度が足りません。入試制度と志願者倍率、卒業後の進路と進学率についても必ず受ける大学と競合大学、加えてこれから競合になりうる大学の3つ分を徹底的に調査してください。事業報告書と会計書にはその大学のことは書いてあっても、競合のことは書いてありません。特に最先端の取り組みが話題になっている大学は今後競合大学になりうるかもしれません。徹底的に調べるべきです。
最終面接で落とされることがよくある
意外だったのが大学は最終面接でも普通に落とします。普通は人事の決めたことであれば信じて通すのですが、大学という組織はトップが当たり前のように採用に口出しをする傾向があります。そのため、それまでの採用でいくら調子が良くても、トップに嫌われてしまえば問答無用に落とされます。とはいえ普通にしていれば大丈夫です。大学の理念や創設者、有名な教授、卒業生を今一度覚えておきましょう。熱意があると気づいてもらえれば問題ありません。